特別編
北海道〜厳冬の氷上訓練

09.01.18.up


せいうちは、寒い寒い北の海に住んでいる。
冬には押し寄せる流氷に閉ざされるような北極海の沿岸地域だ。
せいうちの住んでいるところは、どんな環境なのか? どのくらい寒いのか?
実際に現地を訪れるのがいちばん手っ取り早いが、それはまだまだ先のことになりそうだ。
それでは、せめて疑似体験を試みようではないかということで、
せいうち探検隊は、厳冬の北海道において訓練旅行を実施することとなった。

今回は、札幌から小樽、そして旭川を経て知床に至る旅程であるが、
雪深き冬の北海道行ということで、全行程に鉄道を利用した企画を立案した。
残念ながらせいうちとの会合はゼロとなるが、点在するあざらしたちと対面しつつ、
終盤にはオホーツク海にせいうちの影を求めて、流氷上にまで進攻する強行軍だ。

これはその記録であるが、今冬以降に訓練計画を立てている諸隊の参考となれば幸いである。


鉄道の旅 とは言っても、北斗星やカシオペアを利用するほどの時間(と資金)はない。
そこで北海道への往復は飛行機を利用する・・・往路は羽田から苫小牧へのフライトだ。
東京上空の天気は上々、予定通りまもなく離陸時間になりそうだ。


北上する機内からは突き抜けるような蒼空が見える。
だが、北海道に近づくにつれ眼下に厚く白い雪雲が広がっていく。
機内アナウンスでは札幌地方の天候は「大雪」、着陸は問題なしとのことだが、果たして?


猛吹雪の中を突いて、ジェット機は無事着陸した。
しかし、トラブルはその直後に起こったのだった。
滑走路から着機ブースへ向かう途中、出発機の空き待ちのために
一時停止したのが運のつき。 わずか数分停止している間に、
車輪が雪に埋もれ、中途半端な位置で立ち往生してしまったのだ。

楕円形の小さい窓から外を見れば、二重ガラスの外側にサラサラと
流れ落ちるように降りてくる粉雪。
粉砂糖のようなそれは、みるまに窓の下枠から積み上がっていき、
10分余りで完全に窓を閉ざしてしまった。

自力脱出が困難となった機は、急遽発進した牽引車の力を借りて
ようやく空港ビルに接舷したが、およそ30分遅れであった。


こちらは先を急ぐ旅でもないので、落ち着いて構えてはいられたが、
時ならぬ大雪のためJR各線でさえもダイヤに大幅な乱れを生じ、
ようやくのことで札幌駅にたどり着いた快速エアポートの前面は、
生クリームのパイを投げつけられたみたいにまっ白になっていた。
幸いにも、札幌駅の改札を抜けるころには雪は小降りになり、
薄雲の間から青空も覗くほどになっていた。
あれほど荒れ狂っていた吹雪はいったいどこへ?
その答えを知るのは、その数時間後のことになるが、
ここは新雪の降り積もった札幌の町を歩いていく。

とりあえずの目的は、以前に立ち寄ったおいしいみそラーメンを出す
店を探すためであったが、まずは探索指標となる時計台へ向かう。

歩き馴れない雪道だが、さほど苦労もなく札幌時計台に到着。
白い時計台に白いわた帽子というのも、メルヘンチックで良い。
時計台の全景を一度に見たいのなら、通りを挟んで反対側にある
MNビルの2階デッキに上がってみるとよい。
(1階にあるコンビニの横にデッキへ昇る外階段がある。もちろん無料)

さてさて、予定より遅れたためお昼をだいぶまわってしまっている。
そろそろあったかいラーメンが食べたいのう。
以前たまたま飛び込んだ店の濃ゆいみそラーメンが忘れられない・・・。
その店は、時計台から札幌駅へ向かう裏小路にあったはず。
・・・せめて店名を控えておけばよかったのだが。

↓前回立ち寄った際に撮ったみそバターラーメンの写真がコレ。んまそー。

そして放浪することしばし。 「あっここだっ!」と確信をもって記憶を蘇らせたその店は・・・休みだった。(がーん↓)
今度は店名を記録しておこう・・・「居酒屋 太郎」、定休日は土日祝日。 昼は11:00〜13:30限り・・・ですと?
再びがーん! やっぱりあれは幻ラーメンだったのかもしれん。 というより前回食べられたのが奇蹟?
次に来るときこそ、あのみそラーメンをもう一度! と、固く心に誓う隊長であった。

ということで、お目当てのラーメンを空振ってしまったが、
もう脳ミソの中は完全にみそラーメンモード。
とにかく別の店でもいいから、うまいみそラーメンを
食べなくてはそれこそ収まりがつかないぞぅ!
あぁ、脳みそラーメーンっ!(もはや意味不明)

そこで向かったのは、札幌駅前のエスタビルにあるラーメン共和国。
ここには道内屈指の旨いラーメン屋8店舗が出店している。
う〜ん、どれもおいしそうだが、ここは人気店「けやき」に決めた!
ちょっと行列ができているけど、お客の回転が早いことから
そう待たずとも、あったかいラーメンにありつけそうだ。

注文したのは当然、みそラーメン! ねぎも乗せちゃおうか。
ん〜、コクのあるみそがたまらーん! おいすぃ〜です〜。
これでおナカも脳みそも人心地。


さて、体も温ったまったところで小樽へ向かおうかね。


小樽駅から祝津行きのバスに乗り、一路、おたる水族館へと向かう。
例年11月下旬から翌年3月の春分の日前後まで長〜い冬期休業となるおたる水族館だが、
1月末から2月中旬にかけての約2週間のみ、特別営業を行っているのである。
今日はその最終日。 なんとしても、閉館時間までにたどり着かねば!
・・・よし、残り1時間ではあったが、なんとか営業時間に間に合ったぞ。


館入口では、巨大なペンギン雪像がお出迎え。 でかっ?!
頭にちょこんと乗せられたバケツが小さく見える。

しかし、さきほどまで広がっていた青空をかき消すような
暗雲が迫ってきている。 前線の通過が近いのかもしれない。
それとも、昼すぎまで札幌〜苫小牧付近を襲っていた大雪が
ここまで追いかけてきたのだろうか。

とにかく館内へ入ってしまおう。
玄関先では、あざらし雪像が?
いやいや、これはさすがに雪じゃない。

発泡スチロールでできたお土産送付用の雪ダルマ型ケースを
改造してアザラシに仕立ててある。 上手にできてます!
おーおー久しぶりぃ!

できるかな?のゴン太くんみたいなでっかいセイウチぬいぐるみが
出迎えてくれた。 とりあえず記念撮影しとこうね。


しかし、あまりのんびりしている時間はない。
営業時間は残り1時間フラット。 急いで館内を回ってこよう。


おっ、毛ガニ! 毛ガニ!

水中ネットをよじ登っているが、どこへ行くんだい?
特別営業終了の打上げ会での鍋がコワイ。」ですと?
だ、だいじょうぶだよ、食わない、食わない! ・・・たぶん。
こちらはワカサギの魚群。

まあまあ、銀色でブルーでキラキラですこと!
え?「打上げ会の天ぷらがコワイ。」ですと?
だ、だいじょうぶだよ。 ・・・たぶん。
わぁ! こっちはウニだよ、ウニ! ちびウニちゃんがいっぱい!
みんなでかじっているのは、ニンジン。 なんでも食べるんだね?
お、こっちのウニはまっ白な個体だよ。 なに、名前をつけてほしいって?
うーんとね、じゃあ「ケサランパサラン」っての、どう?  「・・・やだ。


こっちの魚(ギョ)たちは、なんか不思議な一団だなぁ。

いちばん大きい魚の下に、いっぱい隠れてるぞ。
じぃーっと動かないでいるようだけど、
やっぱりみんなこっち見てる!

しかもナニかひとこと言いたげな表情・・・。
何だよ、言ってみな?
打上げ会の鍋が・・・(以下略)」 はいはい、そうね。


おや、なんか「もにょり」とした物体があるよ、と思ったらカワウソ!

コツメカワウソのエリアが大掛かりになってる!

メインの水槽の反対側に半円筒形のミニプールを置き、
その間を空中廊下と地下水道で結んである。
うまくタイミングが合えば、細い水路を猛スピードで泳いで渡るところや
空中散歩を楽しむところが見られるかも。

あっ・・・。 目ぇ離したときに泳いでいっちゃった!
←メインプール下の水路に注目。 カワウソのしっぽが・・・。
よし、今度は万全・・・と思ったら、フラッシュが反射しちゃった(`ε´ブー!)

でも、2頭でなかよく歩いていくカップルをスクープだよ


本館とイルカスタジアムを結ぶ通路沿い、屋外にあるペンギン舎を覗いてみる。
ごっそり積もった雪の中でまんまるペンギンがお昼寝中だ。
ほかの子たちものんびりしているけど、寒くないの? あ、南極に比べたら春みたいなものか。


こちらは暖かいイルカスタジアム内。
シーズン最後のショーをやっていたぞ。
(でも後ろ半分しか観れんかった・・・。)

しかし残念なのは、特別営業ではこのイルカスタジアムが
見学コースの終点となっていることだ。
正規の営業期間中ならば、岬との谷あいにあたる海獣公園に
向かうところなのだが、深い雪が積もるこの季節では
海獣公園への立入りが禁止されている。

ああ、こんなにも近くまで来ているのに!
セイウチ館には近寄れない。ウチオ夫妻にも会えない。 しくしく・・・。
今後は検討してほしいなぁー、おたる水族館さん。 ね?お願い!


これでとりあえず一周。 本館の入口に近いゴマフアザラシとネズミイルカの回遊プールにやってきたぞ。
もう辺りにはだーれもお客さんの影はない。 ほーれ、今年度最後のお客さんですよーだ。
なんだや、あんたら?」というような顔つきでこっちを見るゴマフくん。
ふふ。 時間いっぱいまでここで観察させてもらうゼ。 「まあ好きにしな。


ギリギリの時間までゴマフの前で粘ったが、
いよいよ閉館となり、やむなく外へ出た。

というのも、1時間前の入館時に迫っていた雪雲が
いまちょうど真上に来ている状態だったからである。
水族館のある丘を降りていくが、暗灰色の空からどんどん
白いものが落ちてくる。

かと言ってまだ時刻は午後4時。
予約した夕食時間までには、まだ間がある。
そこで青塚食堂に荷物を預かってもらい、鰊御殿のある丘へ
登ってみることにする。

「遭難しないようにねー。」 後ろから声をかけられる。
大丈夫でしょ、たかだか300mかそこら登るだけだし。

はー、はー、しかし、これが、結構な、重労働。

降り積もった雪は温度が低く、粉末状の新雪なので
軽くてふかふかしているが、足元は結構深い。
風の吹だまりなど、場所によってはひざ上まで埋もれながら
雪だらけになって歩かねばならないところさえある。

やっとたどり着いた頂上の日和山灯台は、吹雪に白くかすんでいた。

↓ちなみに前回旅行時(夏)に写した写真はコレ。
頂上からふりむくと、眼下には雪に煙る祝津の街並み。

手前の赤い屋根は、鰊御殿である。
灯台を回りこみ、日本海側を見下ろす。


激しい海風に煽られた吹雪が、上下前後左右と、
3次元的にあらゆる方向から襲いかかってくる。
とてもじゃないけど、5分と立っていられない!
退却、退却ーっ!!


だがその極限に、沖合いのトド岩を最大ズームで狙う。
もしかすると、野生のアザラシが身を寄せているかも・・・
いや、この嵐じゃさすがにいないよねー。
吹き荒れる風雪の中で、撮影を続ける隊長。
その耳元で、「遭難しないようにねー。」という言葉が蘇る。
舞い上がる新雪に隠れた崖に足を取られたが最後、・・・・・・。

まじでヤバいかもしんない。


撤退を英断し(もう帰りたくなっただけ)、中腹まで降りてきたころになって、
急に雪雲が割れて陽の光が差込みだした。 なんという僥倖!
さっきまであんなに暗い吹雪に閉ざされていたのがウソのようだ。 まだあんなに日が高い!
あいかわらず強風が押し寄せてくるが、むしろその風が雪雲を吹き払ってくれているようだ。
足を止めて、嵐が静まりつつある海獣公園を見渡す。

海獣公園の奥側には、セイウチ館も見える。
あそこに2頭がいるのになあ。

ウチオ〜! ウーリャ〜! 元気でやってるかぁ〜!

遠くから「おーぅ・・・」という声が聞こえたような気がした。
すっかり明るくなった下り坂を慎重に降りていく。

スキーで滑ったら気持ちよさそうだよね。


ふもとまで降りてきた。 片道300mの大冒険だった。
水族館を見上げると、天がまっぷたつに割れ、虹のような彩雲が渦巻いているのが見える。
吹雪と太陽が織りなす神秘的な光景だ。


いつもの青塚食堂。

炭火で魚を焼く香ばしいにおいが誘う。

ちゃんと遭難しないで還ってきたよー。
ちょっと早めの時間だけど、席につくと
さっそく海の幸ががんがん運ばれてくる。

さーて、とことん食うぞぉー!
さぁー、いってみようかー!!

1.茹で毛ガニ+しゃこ 2.お刺身5点盛り 3.イカ刺し 4.なます
5.とろろもずくホタテのせ 6.エゾバフンウニ 7.アワビ刺し
8.あんかけカジカ唐揚 9.オリジナルさつま揚げ 10.白子揚げ
11.イクラ丼 12.海鮮みそ汁 13.焼きホタテ+ツブ貝+ホッキ貝
14.アワビ肝焼き 15.大エビ鬼殻焼き 16.デザート

どれも新鮮で最高の素材。 いつもながら、うまうま〜!

これで追加ナシのノーマルセット。 超大満腹〜!
・・・というより、ほぼ限界。 残さないで食べよう・・・ね・・・ぐふ
いやー、ホント満腹&満足。 もう食べられません。

おみやげにはイクラ醤油漬やホッケなどお薦め品もたくさんあるので
宅配をお願いしておけば、旅から帰宅するころ届きますぞ。


ごちそうさまを言って外に出る。 すっかり夜になってしまったが、
風は完全に止み、静かに粉雪だけが舞っていた。
バス停まではすぐだけど、もう通る人も車もない。

コワコワと新雪を踏みしめる音が、夜の道に響くようだ。


待つこと数分、静けさを破ってバスのエンジン音が近づいてくる。
さながらラリーカーのように軽やかにコーナーをドリフトしてくるまばゆいヘッドライト!
おおおー、バスかっこいいーっ。


ホテルにチェックインして荷物を置いたら、すぐに出かけよう。

小樽では毎年、冬季限定で「雪明かりの路」イベントを開催している。
旧国鉄手宮線跡地の遊歩道から小樽運河に至るエリアでは、
雪穴や雪のオブジェにキャンドルが灯され、とてもロマンティック。
暗い夜道にスノーキャンドルのやわらかな光が点々と連なり、
旅人を幻想的な空間へと誘ってくれる。

炎が間接照明のようになり、雪さえも暖かく感じるから不思議だ。
ここには「地上の銀河」と題した大型作品が。

もし、上空から見おろしたなら、暗い地上に
星屑がきらめいているように見えることだろう。
小樽運河までたどり着いた。

運河内には、浮き玉といわれるガラス玉が並べられ、
中に灯されたキャンドルの炎が水面に揺れる。

浮き玉は、ここ小樽のガラス工場で作られたもので、
このイベントには約400個もの玉が使われているそうだ。


冷たく張りつめるような空気とやわらかな光が織りなす真冬のファンタジー。
寒いけどじっと息をこらして見つめていると、時の流れを忘れてしまいそうだ。