SUZUKI DR800S 〜DR-BIG



スズキDRシリーズ最大の800ccを誇るビッグバイク、DR-BIGことDR800Sである。
カタナと同じくジウジアーロによるシャープでスタイリッシュなデザインが魅力的であるが、
ド肝を抜くスタイルは単なる見掛け倒しではなく、ラリーレイドマシン「ファラオの怪鳥」こと
DR-Z(ジータ)をベースに設計された、超実力派のマッシブバイクなのである。
88年からDR750Sとして販売開始され、91年からは800ccにボアアップされるとともに
基本デザインを継承しつつ、曲面を使用したグラマラスなボディにモデルチェンジした。
主に北米・欧州向けの輸出専用であったために、国内では逆輸入の数十台程度が
存在するのみと言われており、「ディア」こと我が家のDRは、一旦輸出されたものの
箱詰めのまま船で地球を一周して戻ってきたという、欧州仕様の帰国子女である。
そのため、添付の説明書は4カ国語で記載されているものの、その言語はドイツ語、フランス語、
オランダ語及びイタリア語で書かれており、常人には全く読めないのが辛いところである。


はっきり言って、初めて雑誌で見たときにシビれた。 まさに一目惚れである。
しかも「あまり売れていないので生産中止になりそうだ」との噂を聞き、
まだ大型免許を取得していないにも拘らず、バイク屋に駆け込んで取寄せてもらってしまった。
(結局、その後数年は生産延長されていたのであるが・・・。)


後方から見ると、そのグラマラスなダイナマイツ・バディがよくわかる。
単気筒の割に2本出しのマフラーだったりするのも、シンメトリックな美しさを際立たせている。
しかし、やたらと高いシート高やオフローダーらしからぬ大重量のため、
自ら乗る相手を選ぶワガママな娘でもある。 ・・・そこがまた、いいんだけどね。


なんと言っても最大の特徴は、どのバイクにも似つかない
先鋭的なスタイルにある。
だが、尖ったフロントからシールドへと続くカウル部分は
伊達ではなく、巡航速度140km/hオーバーの高速ラリーに
おいても、ライダーを風圧から守り負担を軽減するとともに
操安性を飛躍的に向上させるのに一役かっている。

※「BMWのGSシリーズに似ている」という意見がありますが、クチバシ
デザインのGSが世に出る5年以上も前から、DR-BIGは存在しています。
よって、こちらが先に生まれ出た「オリジナル」なのだ!


5速リターンのギア比に多少の難があるものの、その中低速域での絶対的パワーはかなり凶暴である。
少し回しめにしておいてクラッチをつなげば、フロントタイヤを軽々と持上げてライダーを振り落とそうとする!
GARRRRR!


DRの心臓は、油冷4ストローク単気筒エンジンである。
単気筒エンジンとしては世界最大の排気量を誇り、
独特の力強いサウンドと強烈な振動を伴って鼓動する。
スズキのお家芸ともいえる特異な油冷エンジンと相まって
この54hpを絞出す心臓部こそ、数あるDRシリーズの中で
唯一、「DR-BIG」とのサブネームを冠された所以である。

※油冷式・・・一部の見解では「空冷」のひとつであるとする説もあり、
「空油冷」とも呼ばれる。
油冷式では、エンジンオイルはフレーム内を通り、ラジエター様の
オイルクーラーで冷やされて、またエンジンに戻るようになっている。
ただの空冷よりも冷却効果が高いわりに、水冷のように別途冷却液を
持つ必要がないので、軽量化が狙えるというメリットがある。


砂漠を高速で疾走するために作られたDRだが、サスペンション・ストロークの長さやビックタンクが仇となって、
重心が高く、日本の林道のようにタイトなオフロードシーンでは実力を発揮できないのが難点である。
だが逆に、サイドカウルに護られたビッグタンクには29Lものガソリンを呑み込み、航続距離500km以上の
連続走行を実現するなど、ロングツーリングにおいては、一転、その安定性が絶大なアドバンテージとなってくる。
この高速安定性があればこそ、わずかな余暇で日本中を駆け巡るハイスピード・ツアーが実現可能になるのである。
北は北海道から南は四国、鹿児島まで、陸続きとなった部分は全て、DRのステージになるのだ!


北海道はサロベツ原野の唯一進入可能な浜にて。
「DRは砂漠を走るのだぁっ!」という思いつきで降りたはいいが、自分の技量というものを忘れているじゃあーりませんか。
案の定、この直後にパウダー状の砂に足を取られて、あえなく立ち往生。
焦ってアクセルを吹かしても、エンジンパワーが災いして200kg超の機体はズブズブと砂に呑まれていくばかり。
歩いて100m以上も先から流木を拾ってきてタイヤに噛ませ、やっと脱出したのであった。


91年当時のバイク雑誌に載っていた紹介記事から。
車体色は当初、赤とメタリックブルーの2色であったが、後期型では黒・紫等も存在する。
なお、購入時の新車価格は本体93万円であった。


一晩中走り続け、休憩に立寄ったS.A.で夜が明けた。
朝日を浴びて輝くボディは、水から生まれた美しい生き物のようだ。

そして、旅はまだつづく・・・。


00.12.04.up → 05.10.30.refine

おまけ