・・・今回の旅の話に入る前に、我々の仲間にふりかかった大災害のことから話さねばなるまい・・・。 ときに、西暦2011年。 3月11日に発生した未曾有の東日本大震災により、潮目の海(大型水槽)の壊滅をはじめ 施設と魚たちに甚大な被害を受けて一時休館を余儀なくされたアクアマリンふくしまであったが、 辛うじて一命をとりとめた海獣たちを各地の水族館に避難させるなどの措置を乗りこえて、 同年8月には奇跡の再出発を果たしたところであった。 せいうちのゴォとミルも、鴨川シーワールドを一時寄宿先として避難生活をしていたが、 再オープン時には揃ってアクアマリンに戻り、新たな船出に花を添えていた。 しかし、平和な帰宅も束の間。再出発直後の8月17日、ゴォくんが12歳の若さで亡くなったのである。 死因は腸捻転とされているが、たび重なる転居などから少しずつ体調を蝕まれていたのかもしれぬ。 幼なじみのミルちゃんとの2世誕生を期待されていたところであっただけに、非常に悔やまれる急逝であった。 ![]() 在りし日のゴォ。 ヒレに白手袋をしたようなおしゃれな青年であった。 近いうちに被災のお見舞いがてら再会しに行こうと考えていた探検隊隊長にとっても大きな痛手であったのだが、 そんな矢先、年明けまもない1月5日、アクアマリンふくしまからひとつの発表があった。
単独飼育がミルの幸せにならないとの判断をされたことは、すばらしい大英断であると思う。 これまで共に暮らしてきたミルを手放すことになるということが、 飼育館スタッフにとってつらい決断であることは想像に難くないからである。 もっとも、例えばお婿を迎えるという手段もなかったのかと思うところもあるが・・・。 しかし文面にもあるとおり、「貸し出し」という含みを残したことばを確かめるため、 そしてアクアマリンをひとり旅立つミルちゃんにしばしの別れを告げるため、 急ぎ、せいうち探検隊は新たな旅に出たのであった。 |
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なにぶんにも急な出発であったため、 旅の計画を立てる暇(いとま)はまったくない。 だが、いま行かねばならぬ。 今日行かねば別れを言う時がない。 もちろん別れを言うのはミルちゃんにだけではない。 香港へ同行するであろう、ロックにも会いに行かねばなるまい。 1日で福島と鴨川。 行動範囲の限界に挑むようなアタックである。 冬のこの時期、未明の高速道路は外気温-7℃の表示・・・。 凍てつく路面に細心の注意を払いながら、常磐道を北へとひた走り、 なんとか開館前にアクアマリンまで到達することができた。 寒風に払われ澄みわたる青空の下、復活なったアクアマリンへ! |
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オープン時間前のため、入口付近で待つ。 とりあえず、本日の一番乗りゲット!(特典はないけど) 寒い中待っていると、右側ガラスドーム付近から 大きく、そして懐かしい声が聞こえてくる。 「おぅおおぉーぅ・・・おおぉぉー!」 まずはよかった、ミルちゃん元気みたいだ。 |
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午前9時の開館と同時に飛び込み、(例によって)ほかの展示には目もくれずに海獣コーナーへ急ぐ。 もちろん、準備に余念がないスタッフ以外は、まだ誰もいない。 震災での破壊を免れたアクリルガラスに駆け寄ると、ビリジアン色の水中からスーッと寄ってくる影が。 |
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・・・だからといって、すぐにじゃれあうことはしない。 でも通過するときにちょっとこっちを見たりして。 「わ、わたし、待ってたわけじゃないんだからっ・・・!」 もぉ、ミルちゃんてばツンデレ?^ ^ |
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「んもうっ! たいへんなトキに来てくれなかったくせにー。」 んー、ごめんごめん。 でも元気そうでよかったよ。 「まあ、ね・・・。」 やっぱりゴォくんがいなくなったの、さびしいんだね。 |
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「ん〜! 今日もいいお天気〜!」 陽が当たるプールで、ひとり踊るように泳ぐ。 「・・・最後までがんばるんだ。 また帰ってくるんだもん。」 |
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だんだんお客さんが増えてきた。 アクアマリンでは結構な人気者のミルちゃん。 「あらお嬢ちゃん、ちっちゃいねー・・・わざわざ会いにきてくれたの?」 「ねーミルちゃん、いなくなっちゃうの? 新聞にでてたよ。」 |
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「う・・・そういうこと、言わないでよ・・・。 わたしだって、泣きたくなっちゃうじゃない・・・。 ふ、ぶええぇぇん!」 |
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ミルちゃん、ごはんの時間よぅ。 「はぁーい・・・。」 |
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「はあぁ。 なんか元気でないなぁ・・・。 でもおなかはすくの。」 そうね、食べれば元気もでるさ。 ほら、おいしいよ? |
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ミルちゃん、うろうろ。 落ち着かない? | |||
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青空の見えるオープンドームでの生活もあと少し。 香港スターになって、はやく凱旋帰国しておいでよ、ね? |
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「ふふ、ありがと。 ・・・また会いましょうね! あ、香港まで会いに来てくれてもいいのよ?」 う、うーん、それはちょっと難しいかな・・・でも、会いにいけたらいいな。 それまでバイバイ! |
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お正月らしく、アクアマリン玄関ホールに縁起物の七福神が飾られていた。 えーとなになに? 「アクアマリン七福神 〜 布袋(セイウチ)、毘沙門天(シーラカンス)、福禄寿(ヤリイカ)、 大黒天(ナメダンゴ)、弁財天(ニホンウナギ)、寿老人(ミズダコ)、恵比寿(ゴマフアザラシ)」 ・・・よくわからん・・・。 どれもアクアマリンの人気者とかメイン研究対象らしいけども。 まぁセイウチ布袋さんがかわいいからヨシとしましょう。 ミルちゃんが早く帰ってこられるように、お祈りしておこう。 パンパン! |
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★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ さて、ミルちゃんとの別れは済ませた。 お次はロックくんのところへ行かなくっちゃ。 ・・・と簡単に言ったものの、現在地・いわきから鴨川までは道程にして約300km。 アクアマリンを出たのが午前11時。 シーワールドの入園締切時間は午後4時。 さて、間に合うでしょうか? とか言ってるバアイじゃねーだよぅ! 走れ、走れ! 南へ、南へ! ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ |
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よーっし! シーワールド到着・午後3時40分。 途中渋滞があって危なかったけど、うまく回避してまにあったよ。 券売のおねえさんに「本日分のショーとか全部終っちゃってますけど、よろしいんですか?」と気を遣ってもらったけど、 ぜんぜん問題ありません! 今日のところはショーには用ないので。 用があるのは1か所だけなのです! しかしロッキーワールドはシーワールド入口から一番遠いんだよな、ハァハァ。←最後だけは自分の足で走った |
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はーはー・・・やっと着いた・・・。 おお、タックファミリー。 みんな元気に泳いでいるな。 と、その中でいちばんおチビちゃんがこっちを見つけて寄ってくる。 おぉそうか! キミが去年生まれた赤ちゃんだね? おなまえは? ・・・シュシュちゃんっていうのかぁ。 かわいいね〜 ![]() |
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手を振ったら、「おじちゃん、だーれー?」と、壁を登ってこようとする。 それはさすがにちょっとムリじゃないかい。 うれしいけれどもね。 ズルっと落っこちて「あーん、やっぱり登れないや・・・。」ってペロッと舌を出すとは、 生まれついてのアイドル素質アリ! 将来が楽しみなお嬢ちゃんだこと。 |
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反対の陸場のほうに回ったら、ついてきちゃった。 子どもせいうちは好奇心旺盛で、人懐っこくて、かわいいやね〜。 こうやって寄ってきてくれるところなんかも、お兄ちゃんのロックが小さいころにそっくり! こう見ると、色黒でぴっちぴちなところなんかもよく似ているよね。 |
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「おぅい、なんか当初の目的を忘れてないかい?」、「ほんと、なにしにきたのかしらねぇ?」 おっとっと、ロックとミックに言われて思い出した。 悪い、悪い・・・てへへへ。 |
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「まったく、久しぶりに来たってのに、あいさつもナシかい。」 いや、これはこれはタックパパ。 ごきげんよう。 「や、どうも。 元気だったかね。」 まあなんとか。 ところで、ロックが独り立ちするんだって? 「うん、近々海外へ留学するっていうんだ。」 やっぱりねえ・・・。 タックが駆け落ちするワケないもんなぁ。 「???」 あ、なんでもないよ、こっちのこと。 |
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よう、ロック! 元気そうだね。 美人の彼女と香港に行くらしいじゃん? 「ええっ、なんでソレ知ってるの? まだヒミツなのに・・・。」 んーと、福島あたりじゃみんな知ってるケド。 「もうしばらくナイショにしててよ、照れるからさ。」 はいはい、わかったよ。 |
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おおっ? 今日はなんか特別な感じ。 日暮れ間近だというのに、フーディングタイムが始まったぞ。 鴨川タックファミリーが陸地に勢ぞろいだ。 右からタック(奥)、ロック(手前)、シュシュ、ミック、ミナの5頭家族。 タックの娘がミックで弟がロック。 ミックの娘がミナとシュシュでパパがタック?? ←ちょっと複雑な家庭の事情が(汗) |
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ちょっと復習しましょうかね。 彼が一番わかりやすい、長〜いキバのタック。 キレイに曲がったキバ、よく胸に刺さらないね? 「ううん、たま〜にだけだよ。」 ・・・刺さるんかいっ! |
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こっちはミック。 いまは亡きムックママに似てきたかな。 娘のミナちゃんともよく似ているけど、 細くて長いキバが目印。 やさしい目でシュシュを見守っているよ。 |
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こっちがミックの長女・ミナ。 お母さんにそっくり! 泳いでいるところだけ見たら区別がつかないくらい。 でもまだ子どもだから、キバが短いの。 お客さんにも興味はあるけど、ちょっとはにかんでる? |
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そして今回の主役、ロック。 2003年6月1日生のふたご座の男子・・・ようやく成人かなっていう若者。 やんちゃして片っぽキバを折っちゃったけど、びっくり目のナイスガイ。 |
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なーなー、どうして香港に行くこと、ナイショなの? 「まだ言っちゃダメなんだって。 そういうコトになってるらしいよ。」 ふーん、オトナにはいろいろあるからね。 まあ、ほら、なんだ。 向こうへ行っても元気でな・・・それから、なるべく早く帰ってこいよ。(・・・さびしいからさ。) 「うん、ありがと。 行ってくるね。」 |
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それから、日が落ちるまで、黙ってロックのことを見ていた。 ロックにとって、初めてシーワールドから外界へ出る日が近づいている。 ここで生まれ、育った、鴨川の水を惜しむように、いつまでも家族たちと泳いでいた。 |
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「なーんてね! 水族館生まれのボクは、どこへ行ってもヒーローなのさっ!」 ははは、そうだよね。 水族館2世はお客さん馴れしてるから心配ないよね。 元気で行って来い! Be happy,Goodluck!! |
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冬限定の色鮮やかなイルミネーションが瞬くシーワールドを後にする。 両水族館のスタッフから取材した結果、すべてが明らかではないが、次のようなことを確認した。
友好館である香港オーシャンパークへの一定期間貸し出しというのが基本路線のようである。 いずれにせよ、日本でセイウチを飼育しているたった10館のうちの1館が、一時的とはいえども 手放すというのは、非常に重大なニュースである。 それでなくても繁殖能力のある若い雄個体が 少ないという日本のセイウチ事情に照らせば、海外に貸し出すくらいならば、国内のどこかで カップリングしてほしかったというのが、正直な気持ちである。 しかしながら、アクアマリンのいう 「貸し出しである」という位置づけを信じ、いまは若いカップルの旅立ちを見守ろうと思う。 いってらっしゃい、ロック、ミル。 近い将来、元気な子どもを連れて帰国する日を待っているぜ! |
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