特別編
北海道〜厳冬の氷上訓練

09.01.18.up


アイス・ビレッジですごした静寂の一夜がうそのように晴れわたった青空に朝日がまぶしい。
あたたかい朝食をいただいたら、3日目の旅に出よう。


今回は何の利用もしなかったが、トマムはエリア全てがスキーリゾートである。 雪質の良いことでも有名だね。
むしろ、探検隊のようにスキーもスノボもしないのに来る客のほうが極めて珍しいのだろうけど。

トマムは、駅名やリゾート施設だけがトマムなのではなく、地名がトマム。 カタカナでトマム。(勇払郡占冠村の字名)
ホームの駅名表示板に大きい字で「トマム」とある下に、また読みがなの「トマム」と二重書きしているのが、なんかヘン。
トマム、トマム・・・って10回言ってみ? はい、じゃあ赤い野菜といえば? ト、トマト・・・うを、なんかトマトに見えてきた!

そんなバカを言っているうちに、特急スーパーおおぞらが入ってきたぞ。 写真撮ってて乗り遅れるなよ。

今回乗車した「スーパーおおぞら」など、JR北海道の“スーパー”特急
シリーズは、FIRICO283との愛称を持つ制御付振り子式車両を使用
しており、カーブ区間では強制的に車体をインサイドにバンクさせて
高速コーナリングを可能にしたハイテク車両である。
普通車両よりも+30km/h以上のスピードでの曲線走行が可能らしい。
おかけで、カーブ突入前後には床下から「プシューッ!プシューッ!」と
ダンパーが駆動するような音が響く。

だが特筆すべきはその機能ではなく、走行中の前方ビュー。
客室側からはクランク状の通路にさえぎられて前が見えないので
ほとんどの人が知らないが、先頭の車両には運転席よりも前で
前方の景色を眺められる隠れスポットがあるのだ。
車両の外から見ると、車体最前部の電光ヘッドマークがある辺りが
連結時用のドアになっているのだが、その窓から前が見られるのだ。
走り出したら、先頭に陣取って120km/h超のスピードランを堪能しよう。

誰も来ないことを幸いに、最前部にへばりつく。 すげー大迫力〜!
さすが振り子式車両というべきか、バンクしながらコーナーに入っていく
感覚は、バイクのそれと似ている感じだ。
さあ、トンネルの先にはどんなすばらしい景色が待っているのだろうか?


スーパーおおぞらの終着駅、釧路に到着。

でもここからが今日のメインイベントですぞ。
駅構内には、古き良き時代・昭和の匂いが漂っている。
蒸気機関車の焚く釜から出る、石炭の煙の匂いだ。

これから乗る「SL冬の湿原号」は3番線からの発車だ。

3番線では、すでに入線した機関車が石炭の煙を燻らせ、発車時間をいまや遅しと待ち構えていた。

機関車前面には「SL冬の湿原号」のヘッドマーク。 冬期に1日1往復だけ運行される特別列車だ。
牽引するのは名機・C11型蒸気機関車。 C11は中距離旅客列車用に作られた機関車である。
SLとしては大型機ではないが、黒鉄色の車体は重厚感にあふれ、現代の鉄道車両にはない機能美を醸し出している。

運転台の機関車乗務員の動きが活発になってきた。

電源ONで出発可能な電車と違い、釜に火を入れてから
ボイラー圧力が上昇し、巨体を動かすまでになるには
数十分から1時間もの時間を要する。

走り出してからよりも、むしろ予備動作のほうに多くの
神経を注ぐそうだ。
本日、SL冬の湿原号を引いてくれるのはC11-207号機。
JR北海道が動態保存するC11型機関車2両のうちの片方だ。
毎冬の運行開始日だけは、相棒のC11-171号が現れ、
特別に171号機と207号機の重連運転が行われるそうだ。


機関車の各部から、白いスチームが吐き出され始めた・・・
機関の中を圧力が駆け巡り、拍動を始めるのはまもなくだ。

連結されるチョコレート色の客車は、SL列車専用の客車4両+カフェカー1両の5両編成。

そして列車最後尾には、ヨ3500型の車掌車が連結しれている。(正しくは貨物兼用のため緩急車と呼ぶらしいが、ここでは愛着をこめて車掌車と呼ぶ。)
昭和時代の貨物列車には、必ずと言っていいほど最後尾に連結されていた車掌車だが、現役で残っているのはほんの数両だけと聞く。
少年時代は貨物列車の最後尾に付いてくる黒い「ヨ」が特別な存在に思えて、一種の憧れさえ感じていたのだが、
この列車では連結されているだけでなく、展望車代わりに中へ入れてくれるのだ。 長年の夢が、今日かなうのだ!

カラン、カラン♪ と、車掌が歩きながら鳴らす鐘の音が、発車時間を告げる。
みなさーん、お早目のご乗車をお願いしまーす!

客車の中は、レトロ調だが観光用にリニューアルされたボックスシートが並ぶ。
木がむき出しの昭和時代の座席と違い、ちゃんと布マットが張られヒーターもついている。

車掌さんが検札に来て、乗車証明書をくれたよ。

なぁなぁ、早く車掌車に行こうや! うずうず、わくわく。
出発したばかりでまだ釧路市街を走っているところだが、こらえきれずに列車内の探索に立つ。
・・・うぁ、もう先客がいるよぅ。 知っている人はこれを楽しみに乗ってくるからなぁ。
車掌車ではボランティアのガイドさんもいて湿原の知識について語ってくれるぞ。

車掌車内は意外と広く、横並びのシートも整備されている。

火力の強い石炭ストーブ(ダルマストーブ)も置かれており、
気密性が弱く、すきま風の入る車内もさほど寒く感じない。

薄氷が張った釧路川に架かる鉄橋を渡る。
線路際には、通過するSLを撮影しようとする写真家たちが点々と立っている。

車掌車での楽しみはいくつもあるが、一番の醍醐味はこれ。
吹きさらしのデッキに立てば、多少身を乗り出して見渡すことが可能なので、
列車を牽引して疾走する機関車の写真が撮れるのだ。

積雪の少ない釧路湿原の中を、汽車がゆく。

舞い上がる石炭の煙が目にしみるー!

力走するC11。 小気味よいドラフト音と時折鳴らす汽笛の音が、ロマンをかきたてる。
ちなみに一般客車の窓は煤煙防止のためか、固定式で開かないようになっているので、
蒸気機関車の姿と、音と、匂いを、じかに体感できるのは車掌車のデッキしかない。

列車がゆるやかに減速し、ポイントを通過する軽い振動とともに
停車駅の塘路(とうろ)に入っていく。

途中駅なので乗降はないのかと思っていたら、観光バスツアーを
効率よくこなすため、釧路から乗ってきたお客のうち結構な数が
塘路駅で下車し、入替わりに別の観光客たちが乗り込んでくる。

・・・中には乗り過ごして大騒ぎになったBabar集団もいたが。

塘路の次は、茅沼駅に一時停車。

駅とはいっても、この先に茅沼温泉という温泉があるだけで、
駅前はだだっ広い湿地帯が広がっているだけの、何もない駅。

さすがにここでは乗り降りする乗客はゼロだったのだが・・・
誰も予想してなかったお客が駅前で待っていたのだった!
駅前で待っていたのは、野生のツル! 家族なのか3羽連れだ。

茅沼駅前には、ツルやタンチョウなどがエサを求めて
飛来することもしばしばということだが、基本的に彼らは
機関車の大きい音が苦手のため、SLが近づいた音に驚いて
飛び立ってしまうことがあり、停車中にゆっくり観察できる
機会にめぐりあえたのは運がいいとのこと。

ツルたちは、しばらく列車の横でエサをついばんでいたが、
1羽が飛び立ったのに続いて、3羽とも一緒に飛んでいった。
北海道にはまだ、こんな大型の野鳥が羽ばたく空が残されて
いるんだね。


SL冬の湿原号は、まもなく終点・標茶(しべちゃ)駅に到着。

標茶駅のホームでしばしの休息をとるC11。
とはいっても釜の火を落とすわけではないので、しばらくは近くでSLの息吹を感じることができる。

折返し運転の釧路行きが出発するのは、約1時間半後。
それまでご飯でも食べて、ゆっくりと待っていよう。

到着ホームを一旦離脱し、釧路方面行きのホームに移動したSL冬の湿原号。
まぶしい青空に、機関車の白い吐息が吸い込まれていくようだ。

そうしているうちに、機関車だけが切り離されて
駅構内の奥へと走っていく。 どこ行くの?

停車した機関車にハシゴがかけられ、作業員が登っていく。
・・・どうやら、給水をしているようだ。

「蒸気」機関車なんだから、当たり前っちゃあ当たり前だが、
あの重い機関車は、水の蒸気圧で動いているんだよな。
水のチカラってすごいね。

給水を終えたC11は、行きとは反対に車掌車の後ろから連結した。
そうか、ターンテーブル(機関車の向きを変える転車台)がないから、帰りはバック運転で走るんだね。

名残惜しいが、まもなくお見送りの時刻がやってくる。
3つの動輪をつなぐピストンから蒸気を噴き、まさにこれから車輪に力を伝えようとするところ。

それまで白かった排煙に代わり、煙突からグボッとまっ黒い煙が出てきた。
この白と黒のアンサンブルは、発進のため一気に給炭したことを示すサインだ。
同じ石炭なのに煙の色が劇的に変わる理由は、釜の中の石炭が安定して完全燃焼しているときは白い煙に、
発車時や馬力がほしい時に石炭をくべて火力を上げようとすると、一部が不完全燃焼して黒い煙になるためである。

白と黒が混ざりあった灰色の煙が激しく噴き上がる。 そして、それとタイミングを合わせるような
「ガッシュ、ガッシュ、ガッシュ・・・」という力強い低音ともに、黒鉄の機体がゆっくりと動き始めた。

腹に響くようなドラフト音の後を、タタンタタン・タタンタタンという軽快な客車の音が追いかけてゆく。

いま、万感の想いをこめて汽笛が鳴る・・・いま、万感の想いをこめて汽車がゆく。
ひとつの旅が終わり、また新しい旅が始まる。 さらばメーテル、さらば銀河鉄道999・・・さらば、青春の日よ。
・・・という名シーンのナレーションが心の中を駆け抜けていく。
走り去る汽車を見送るとき、人はさびしくもせつない想いを呼び起こすものなのだろうか。
遠くなるC11が、ポゥッ!と短く汽笛を鳴らした。

汽車はゆくゆく、煙は残る・・・。
わずかに残された煙も、風にかき消されて散っていった。


ああ、行っちゃったねぇ・・・。


ちょっと! 感傷に浸っているのに、何だよぅ。

あっちにいいものがある、だと?
標茶駅舎に併設された喫茶店で、
おいしいミルクソフトクリームを発見。
うん、寒いときにソフトクリーム。 いいねえ。

こうして、感傷は甘い思い出に変るのだ。

標茶からは鉄道を離れ、今晩泊まるホテルの運行する急行バスに乗せてもらう。
バスは屈斜路湖と摩周湖の間を抜け、斜里から知床半島へと走る・・・が、探検隊は車中で一眠り・・・ぐぅ。

気がつくと、終着のウトロに着いたところだった。 もう日が暮れる・・・というか、夕陽を見損ねたーぁ!
丘の上にあるホテルの窓から海を見れば、数百mに及ぶ流氷が接岸しているのが見える。
よしよし、これで明日のイベントも大丈夫だろう。


夜は出かける用事があるから、早めに腹ごしらえをしておこう。
ホテルのバイキング料理を山ほど・・・ほんとに山ほど取ってきたね、おい。 ちゃんと全部食べるんだろうね?
(10分経過) あ、大丈夫だったね。 おかわりしよーっと。 え、それなに? チョコレートタワー?!
溶けたチョコが滔々と流れる中にフルーツなどをさして絡めとるのだ。 んー、あまあまぁ〜(*^o^*)

おみやげ売店で、珍しいアザラシを発見。 アザラシグミだって。 そのスジの方?(違うッ)
でも結構かわいくできてるよね。 体に振られたグラニュー糖がいい感じ。


夕食の腹ごなしに、ホテルから送迎バスに乗って出かけよう。
観光協会が主催する、オーロラファンタジーを見物に行くのだ。

知床の緯度では通常、オーロラが見られることはまずないが、
昭和33年に1度だけ本物のオーロラが観測されたことがあり、
これをモチーフにしたエンターテインメントとして冬期に開催している。

会場となる流氷自然公園・オロンコ岩へは、途中で送迎バスを降り、トンネルをくぐって歩いていく。


辺りはしんしんと冷えはじめ、気温は-10℃以下にまで下がっている模様だ。
そんな冷気の中、階段状の観覧場所に立って待っていると、あたりに薄く煙がたちこめてきた。
麦藁を燃やした煙で夜空にスクリーンを作り出すらしい。 音楽とともにオーロラファンタジーがスタートするぞ!
色とりどりのレーザー光線で描き出される創作オーロラがスモークを焚いた夜空に踊る。
漂う煙がランダムに形を変えるため、本物のオーロラのように不規則な動きを立体的に描くことに成功しているが、
これは会場付近のみならず、ウトロ港に浮かべた船上や遠く知床の山腹からもレーザー照射する大仕掛けだ。
しばし寒さを忘れて、夜空を見上げ続けた。 ・・・ラストはクリオネとハートマークが出て、ちょっとおちゃめに終了。

会場には流氷を積み上げて作った流氷神社が祭られていた。
ぱんぱん、明日は流氷で遊べますように・・・お願いします! 

肉眼ではまっ暗で何も見えないが、デジタル画像を解析するとこのとおり。
漆黒のオホーツク海に、岸から沖までびっしりと流氷が続いているのがわかる。

明日は早朝から流氷ウォーキングのイベントがある。
流氷は十分に接岸しているし、あとは準備をして早めに寝るだけだが、
・・・前の晩からテンション高すぎないか?!