多摩川たまちゃん現る!
あざらし観測隊・出動!

02.08.15.up


夢か真か、はたまた幻か・・・。多摩川にあざらし出現!?
その報を受けたのは、先週末のことであった。
まさか・・・? もし事実ならば、前代未聞の記録である。
ご存じのとおり、あざらし類は一部の種(ハワイアンモンクアザラシなど)を除けば、
みな北極圏に近い、寒い海に住む動物である。
それが、東京湾を通過して多摩川に現れたとは???
たしかに、千葉や茨城近海にまで来ることはしばしばあるし、
東京湾で目撃された例もないことはない。
(ただし十数年前に1度だけあったという話)
従って、もし遭遇できたならば、東京神奈川で野生のあざらしを見られるという
2度とないかもしれない「奇蹟」なのである。

横浜せいうちランドとしても、せいうち★あざらしミュージアム
開設する者として、この話を黙って見過ごす訳にはいかない。
急遽、あざらし観測隊を編成し、隊長以下2名(頭?)を派遣した。

















多摩川の午後。
1 眩い夏の太陽が水面に反射する。
2 陽も傾いて、暑さも一段落
3 オレンジ色の夕映えが涼風を運ぶ
4 日没と同時に三日月が現れる
8/11()、いよいよあざらし観測隊の出動である。
当日は雲ひとつない快晴あったが、炎天下を突いて1500時・出撃。
その後の調査から、8/7には第1の目撃があったらしいと判明しているが、
最も目撃情報の多いとされる、多摩川・新幹線鉄橋下(東京側)に向った。
着いたときには、既にプレスをはじめ、2〜30人が川岸に陣取っていたが、
本隊もコンクリート岸に観測拠点を確保し、哨戒を開始した。
周囲の状況から推察するに、現在は近い水域にはいないと認められたが、
同時刻は満潮に向うタイミングであり、東京湾河口から数km離れた同地点でも
潮が河口方向から上流方向へと逆流していることから、
あざらしもこの流れに乗って再び回遊してくる可能性が大であると予測、
しばらく拠点において待機しつつ、出現を待つこととした。

8月の陽射しは容赦なく肌を焼き、水面の反射もあって、
目を開けているのもやっとの状態での辛抱が長らく続いたが、
いつしか日も夕焼け雲に隠れ、夕照の中、涼風に吹かれて時が過ぎてゆく。

あれほど速かった水の流れも凪の状態に近づき、
水位は観測開始時より1m以上も高くなっていた。
ふと見ると、夕暮れの空に三日月が浮かんでいる。 これでほぼ満潮のようだ。
しかし、あざらしは現れない。
あたりが暗くなるにつれ一時期は50人を超していたギャラリーも減り始め、
テレビクルーも最後に岸辺の人々を撮影して帰投していった。
そしてついに1900時。熱闘3時間余り、完全に日没となった時点で撤退を決断。
この日、あざらしは最後まで現れなかった。
がっくりと肩を落とす観測隊であったが、
「きっと、今日はみちを間違えずに海へ帰ったんだよ。」
と信じながら、帰路へと就いた。

ところが・・・である。
翌8/12()、テレビでは「今日もたまちゃんが現れました」の報道。
なんてことだ! 愕然となる観測隊員。
昨日の灼熱地獄は無駄だったのか・・・!?

これでは、酷すぎる。 いや、このままで終らせる訳にはいかない!
もう一度、アタックするしかない! リベンジだ!!
この不屈の闘志が、真の奇蹟を呼び込むことになるとは、
隊長も、まだ知るところではなかった。
(↓「前置きが長い」と言わずに、下の記事へ急げ!↓)

  
実は、この写真の中には既に・・・?

8/14()、第2次あざらし観測隊の出動である。
しかし今回は、振休をとれた隊長ただ1人(頭)での任務であった。
前回の失敗を踏まえ、今回は満潮直後の引き際を狙っての観測計画を立てた。
1005時、予定より5分遅れての現着。
すでに10人ほどのギャラリーが集まっていたが、
前回と同じ最前列に定点を確保し、即時観測を開始した。

潮の流れは、前回確認した満潮時よりも50cmほど水位が下がり、
引き潮が始まって間がない状況であると確認された。
鉄橋の橋脚もかなり水没している。

諜報活動(噂の立ち聞き)によれば、
朝方には下流方向で頭を出したらしいとのことであったが、
過去には上流の丸子橋に出現との情報もあり、
あざらしの行動を予測することは困難を極め、
運を天に任せるしかない状況のようであった・・・。

しかし、運命の瞬間は突如としてやって来た!
しかも意外と早く。

観測開始から僅か12分後。
1017時、邂逅は突然やって来た。
隊長がふと見た橋脚下の水面に、波間に浮かぶ丸いモノを発見したのと
回りから「アッ」という声が上ったのは、ほとんど同時のことであった。
灰色のボールは、明らかにこっちを見つめている。
・・・、見つめている!?
なんとなんと、なんと! 来たーっ!!
誰が呼んだか名づけたか、お待ちかねの多摩川あざらし・たまちゃんだぁ!



ぷかぷか浮かぶ、グレーと黒のツートーン。
あれは正しくあざらし頭!
つぶらな瞳が実にかわいいではないか。

水の中から伸び上がるように出した顔には
意外にも、せいうちばりにのびた長い髭が。
この立派な髭からすると、アゴヒゲアザラシの
仲間とも考えられるが、この種は北極圏を
棲家としており、日本近海にはあまり
やってこないはずでは・・・?

うーむ、たまちゃんって何あざらしなんだろう。
そんなことを考えているうちに、
たまちゃんはさらに意外な行動に!
水面ギリギリに現れた橋脚の台座に
よじ登ろうとしているではないか。

たまちゃんは一生懸命チャレンジするが、
なかなかうまく登ることができない。
しかし、アタックすること数回。
ついに台に登ることができたときには、
ギャラリーからも、わっと拍手が上る。

たまちゃんは、照れくさそうな顔でこっちを
見ながらも、ほっとした様子で「ふうぅ」。


たまちゃんは、やっぱり野生あざらしのようだ。
愛嬌のある表情をしているが、
常にこちらの監視を怠らない。
でもその顔が、お得意の反り返りポーズで
繰り出された日にゃあ、愛らしくてたまらない。

やっと登った陸地で一休み、と思いきや、
すぐそばで魚が跳ねたのを見るなり
それを追ってドボン!と水中へ。
しばらくしてすぐに戻ってきたのだが、
予想どおり、じたばたしながら大苦戦の末
やっとのことで台に登ったのであった。


台座の上で一休みするつもりの様子。

実は、この時になって知ったのだが、テレビクルーによれば、
これまで数日にわたって目撃されていたたまちゃんであるが
全身をカメラの前に晒したのは、今日が初めてとのこと。
なんという幸運であろうか。 前回の分を取り返して余りあるラッキーである。
それでは遠慮なく、詳細な観測を行わさせてもらうことにしよう。

真横に向いたところで、あざらし特有である「耳殻なしの耳穴」が見える。
ついでに、水深測定用のメモリと比較して、体長を測定。
足鰭を伸ばした状態で、鼻から鰭先まで約130cmである。
あざらしの部類としては、小柄である。

と、ここで疑問が持ちあがっくる。
先ほども述べたが、髭の量や長さなどから見るに、
たまちゃんはアゴヒゲアザラシのオスのようであるが、
だとすると、体が小さすぎるのである。

ちなみに一般的(?)なアゴヒゲアザラシの場合、
1.他のあざらしに比べて髭が長くて多い。
2.体毛に模様はあまりなく、灰褐色のものが多い。
3.雄雌ともに体長2m超と、あざらしとしては大型の部類である。
4.北太平洋、北大西洋、北極海といった北極圏に生息する。

5.あざらしの乳首は普通1対だが、この種だけは2対持っている。
と言われている。
つまり、1と2からすれば、アゴヒゲアザラシの仲間と言えるが、
3の平均体長からみた場合、あまりにも小さすぎるような気がする。
まして4の生息域を考えると、北海道近海ですらあまり見かけない
ということからすると、かなり疑問になってくる。
アゴヒゲアザラシだと、生まれたばかりの赤ちゃんでも130cmくらい
あるそうだが、もしたまちゃんが子供あざらしなら、はるばる北極圏から
東京湾を越えて多摩川まで一人で来れるだろうか?
仮に親と一緒に来たとして、子連れでここまで泳いで南下するだろうか?
たしかに過去の記録では、一昨年には三河湾で発見されているし、
もっと以前には、大分県での目撃もあるということだが、
それは大人のアゴヒゲアザラシのことだろうし・・・。

謎は深まるばかりである。

あざらしは、野生のものでも、おなかを向けて寝ることに抵抗がないらしい。
ギャラリーが気になって常に顔は向けていても、おへそもこっち向きだったりする。
人間が気になるのか、せっかく寝っ転がる
場所をキープしたのに、なかなか眠らない。
干潮に向かい、だんだん水位が下がってきた。
今のうちに寝とかないと、次はもう台に登れなくなっちゃうよ?

しばらく我慢していたたまちゃんだが、ついに
浅いお昼寝に入った。
しばらく起こさないでね・・・。



・・・と思ったのも束の間。
ものの10分もしないうちに、意外な邪魔者が。
鉄橋の隙間から洩れる日光である。

「あー、せっかくうとうとしてたのにぃ・・・。」
まったくもって運の悪いことに、
ちょうど顔のところを陽射しが直撃。
「うーん、まぶしいよぅ。」
困って鰭で顔を覆うたまちゃん。
ちょっとかわいそうだが、
こういう仕草が、またかわいいのだ。
眩しいのにも慣れて、やっとくつろいでるのに
人間の子供はちょっとウルサイなぁ・・・。
「たまちゃーん!」「たまちゃーん!」
って、呼ばないでよぅ。眠いんだからぁ・・・。
もう、しょうがないなぁ。
ちょっとだけサービスだよ。

・・・鰭を振ってくれました。




観測開始当初は10人程度だったギャラリーも、
たまちゃん出現の連絡網(?)を聞きつけた人で
なんと100人以上まで膨れ上がっていた!
テレビ局も民放揃い踏みというところで、
各局、レポーターのおねえさん付きである。
熱狂的とも言えるほどの人気じゃないか!

ん? こ・・・これはっっ!!
も、もしかすると、まさかついにっ!
「あざらしブーム」の到来か?!


          ・・・こないだろうな・・・。
観測開始から3時間。 いよいよお別れの時が来た。
かなり長い時間、姿を見せてくれていたたまちゃんだったが、
どこかへ行くつもりなのか、急に川の中にザブンと飛込んだのである。
水に潜って、しばらく隠れて出てこなかったりであったが、
ちょうど6分おきにひょこっと顔を出してこちらの様子を見たりしている。
そんなことを5度、6度と繰返していたが、顔を出す場所は、
回を追うごとに、5〜10mずつ下流へと遠ざかっていた。
そして、名残り惜しそうにこっちをふりむくように顔を出したのを最後に、
たまちゃんは多摩川の流れに消えて行った。

よって1310時、あざらし観測隊も任務解除とし、帰途についたのであった。


現在の多摩川は、昔と違って水質もかなり改善されており、
永住はともかく、あざらしが生きていくには耐えられる程度にはなっているようだ。
アゴヒゲアザラシは、魚以外にもナマコやカニ、エビ、貝なども食べるそうだから、
とりあえず食料には困らないとは思われるが・・・。
くれぐれも流れてくるビニールやペットボトルなどを間違えて
飲み込んだりしなければいいな、と願うところである。
でも、できれば早く元の海に帰りなさいな。
それまで元気でね! たまちゃん。


2002.08.14.あざらし観測隊隊長・きゅうきゅう記す。




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